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明日に存在するソーダ
意図せず風に乗ってあっという間に手が届かないところまで離れていき見えなくなったレシート。あるいは彼女の、かつてはあったかもしれない、でもいい当ててしまいたくはない確かな魅力。
ポケットに手を突っ込む。
そうして彼は考える。今はそれが誰のものなのか。誰が持っているのか。浅ましい、もう読み返すことはないのに離しもしない本、指先で触れるか触れないかぐらいの距離でしかないのに、私物だと主張する瞬間に非常によく似ている彼の手法。
明日にはあるソーダ、そんなものと全く一緒。
それを明日の彼が買う、彼じしんはその事実を知っている、そうする気でいるのだからソーダは彼の手元にあるのだといえるようになり、寝れる。彼の世界、彼の明日。
彼の誰にも見せない優しさを、学内の自動販売機に対してだけ僅かに見せている時、売り切れ、という彼の真実は嘘になる。しかし彼の肩が誰かに叩かれることはない、決して。そんな肩が何色かなんてことも映りはしない。
明日も明後日も来年もずっと変わらずに彼はそうだ。




