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ペイン
ぼくの心臓が誘拐された。2度と返されないと知っていた。だって犯罪ではなかったから。
彼は小学校、中学校卒業までずっとおなじ通学路をいききしていた。どこまでも優等生のかおをして。
合同体育のとき何回か、静かなげた箱のところで彼はからっぽになった僕の胸をなでた。彼の視線はぼくをはるか遠くにまでおしやった。
おなじことをぼくはしたいと思うだろうか、いつかは? それは彼を相手に? それともまったく別な存在をみつけて?
季節はめぐっていって、ぼくの心臓が今日もどこかでうるさい。
ぼくは生きてる。




