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本棚の前で
読み終わった、読み終えてしまった、いつかはそうなると始めから知っていた、いい本か悪い本かもわからずに選んだのもまずかった、だからこそ最後のページが来てほしくなかった、思いながら読みすすんでいた、今はもう読み終わった本、彼や彼女は手を表紙に置く、今はもう閉じられてテーブルに置かれている本、逃した百の音百の虹、棚の前に行くじぶん、彼や彼女はそこに座り続けながら想像している、想像するのはじぶんたちの姿、棚の前に行くじぶん、沢山の本、そこには可能性が並んでいるのが当然目に入ってくる、上から下まで見ていく、なかには好きな話もあれば嫌いな話もあるだろうし、今は好きな本でも、来年には嫌いになってしまうかもしれない、逆もまた然り、彼や彼女は想像している、読み終わった本を携えて、現実には本を眺め下ろして、けれど大差はないだろう、読み終わってしまった本を前にして、何かしらの気配を感じとるとしたら次の本のものでしかないのだから、でも今はまだそこで、見ようによっては途方に暮れているかのように佇んでいたかった、巨大な本棚の前でしばらくはまだ。




