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HB






 あの娘の大切にしている言葉が何でできているのか知らないで学校が何でできているのか知らないで幽霊屋敷と化した家が何でできているのか知らないで冷たい机と椅子が何でできているのか知らないでつまり心が何でできているのか知らないで調べもしないで入部した写真部員が過ごすみたいな数年間にとてもよく似た時間を過ごせているようで過ごしてなんかいなくて桜の樹の下に埋まっているべきは屍体なのだけれど無論そんなふうには彼や彼女は思っていない。



 ただ後方に流れていき見えなくなる音楽。十日分の天気予報や献立。あってもいいしなくてもいいものに囲まれた暮らし。街灯。

 今はどうでも良く、だけど今後ずっと同じ重みを持っていることはないと自身でも予測している全て。予測範囲内にとどまる意味。ただ何もかもをどうでも良くしてしまっている者としての呼吸法、写真部員にしか意識されてない窓の景色みたいな、壁のシミみたいな。

 読んでいる振りをした雑誌。たとえ人並みに傘を差しているとしても穴だけを肌身はなさず持ち歩く技能、それを磨いているだけに過ぎない手と箸の持ち方。

 この季節のなかでずっと完全に閉め切られたままのカーテン。

 決めきれないメニュー。答えを欲しがる腕、子供の腕。

 愉快なダイスなんてない、愉快なジャンケンなんてない。コーラで歯がとけていく、それならむしろ愉快な町にいるっていうことは可能になったりするだろうか? 



「やる気ナッシング」

「お先ダークネス」

 高校生男子はファストフード店で机の上にノートを広げて勉強しながら愚痴のいい合い。

 今きみはここで一人。



 残り少ない今日を今日のそれで染め上げる。

 今日、ツイッターだけは見ない。見てはいけないと分かる時がある。

 きみは一人で、まだ席を起たないままで、ぼんやりと思っている。借りたまんまの『すてきな15才』、返しに行かなくちゃ。 



 屍と炬燵に入ったってどうせ暖かい。めくるつもりはなかったとしても風はどこにでも来て、去って、きみが次のページをめくったんだってことになってしまう。たとえば、中学時代からきみと仲良しの友達とチョコモナカジャンボ、どっちの方がよりこの世界にとって大切な存在なのかきみには決める権利がない。文句をいう権利がきみにはない。

 幼い頃信じることができていた物語、信じるに値する歌詞、そういうのがどんどん減っていってみんなじぶんの躰を意識し出したんだ。


 

 儚く砕け散る覚悟、それがきみにはない。

 ずっときみはきみの言葉を隠してきた。ぴったりくる方法をきみは探してた。探しながら探し方を探してて、でも見つかる気がしない、と思う時、何がだろう、ときみは考えがち。過去も未来もない、向き不向きもない、いた方がいいのは、吹き荒れていていい嵐としてのきみなんだろう。誰かに伝わることは決してない。一体どうして大人の言葉と子供の言葉があるんだろう。いつかどこかできみはそれを、吹き荒れる嵐としていう。本当は誰とも、じぶんとも仲良くなれないからこそ吹き荒れる嵐として。将来の夢を作文に書いて提出する時が決定的だったでしょう、きみの言葉を他者が待っているなどということはこの世ではあり得ないというのは。  

 そのたった一つの望みを変えない理由を、きみは分かっている。口に出されるべききみの言葉があって、それを待てるのなんて、この世でたった一人だけだから。本当のじぶん、そして言葉を持てば誰かはいなくなる。じぶんの言葉で部分的にじぶんが殺されたりする、それだって大いにありうるだろう。いつかのきみ自身が、きみのなかに植えたもの。うまく育てばの話だけれども、きみの胸をそれが突き破って、それで新しいじぶんになれる、成長の痛み、新しくも古くもない痛み。きみはいくつも思い描いた。きみの口、舌。真っ赤な、間違った正しさだか正しくないだけの間違い。並の涙、血を流し続ける心。

 いつかの未来のきみの舌に向かって、きみは手を伸ばし続けてる。守るためにか壊すためかは結構謎のまま。壊れていようとなかろうと、きみの言葉に手が届く瞬間を、繰返し何度も思い描いたきみ。



 その時がきたのなら初めてきみは感じるだろう、きみの舌が本当にきみの舌になる瞬間を。 

 それが、きみ自身の言葉によってきみが、きみだけの孤独を手に入れる最初の瞬間。





















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