庭
あなたの家にある庭、あなたの暮らすところに庭なんかずっとなくても、あなたの庭ではある日、一本の木が立っている。唐突にそれは起きるわけだが、いつもの朝の日差しと鳥の鳴き声のせいでじぶんが知らない遠い場所に流されたみたいな感じがしているだろう。その木はどこからか見当もつかないがやって来て、今朝あなたがカーテンを開けたら立っている木だ。あなたの庭目指して? たまたまだろうか、たまたまあなたの庭が目についたので小休止、だけど木だからしっかり根を下ろす、そういうふざけた状況だとかか? いい分を聞こうじゃないかとあなたは裸足で降り立ってズンズン木に近づく。あなたは冷静沈着の人々の一員でありたいとは思うけれど、今は怒気を放っている、そうじぶんでは考えていても、あなたらしさしか今もそこにはない。この場所に侵入を許してしまうだなんて。それもいきなり大きな木だなんて。今あなたは駆けていくこともない、怒鳴りながら駆けていくことも、裸足でダッシュで勢いをつけて飛び蹴りを見舞わせることなんていうのも始めから選択肢から除外しているのがあなただ。後々困ることにならないよう、じぶん以外の住人たちに迷惑がかからないようあなたは辺りを窺いながら暮らしている。木に向かって行く速度、適切な声と言葉をまとめている表情、持ち上がりつつある何かにきっちり対応してみせようとしているその姿だけとってもあなたらしさが十分に感じられる。
この話はもちろん、いつも通りに珍しくもない終わり方で終わる、あなたらしく、ずっとあなた一人で抱え込んでいくしかない類いの何かだけを残して閉じられるだろう。




