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冬、海に行ったことは?






「冬、海に行ったことは?」



 おそらくだけど人には時が過ぎてから、だいぶ後になってから、くり返し何度も思い返すことになるようなフレーズというのがあって、私の場合これがそう。



 思うに、そういう種類の誰かが発したフレーズというのは、いつまで経っても秘密の匂いがするんだけど、でも実際のところはそんなに大層な話でもなかったりするんだろうな、みたいな軽みみたいなものも感じられている。



 実際、その人に対して大きな関心を寄せたら、その人はその人でなかった、ということは何度か経験していた。






 今日、また電車の座席にいて自分の足が二つ並んでいるのを見下ろしていたらふと頭が再生していた、またこれを聞いている、と自分にいわれながら。



 冬、海に行ったことは?

 これだって一つの経験じゃないかと時おり誰かに向かって問いたくなる。



 冬、海へほんとうに足を運ぶのと同程度の何かを、私は見てやしないかと。



 どの季節の中だったかももう思い出せない、あの保健室の時点でしかし、彼じしん、もうそのセピア色の海辺に置いてきたものを忘れようとしている自分を意識していた可能性もある。

 冬の海辺、この絵の作者はもしかすると彼でなく他の、違う少年の見た景色なのかもしれないなと、私も思うようになった。

 このさみしさの作者は、今でもどこにも行けないということだけがあった。

 ここにいたい、それも皆の本当の気持ちだろうが、時々、別の場所にいる自分の姿があまりにも鮮やかすぎると、私は半分消えていることになる。とても長いマフラーが、私は一番欲しくなるべきだ。










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