世界地図
なにもないから何もない大学生らしく一人暮らしの部屋で、世界地図だけを床に広げてみよう。
そうしておれは午前九時そこで派手にこけてみる。部屋で、一人で。おれの身長は百七十強。
しかし世界地図ほど、多分涙を落とすのに相応な紙なんてない。受け止めてほしいと、本気で考えてしまうような場合には。
だってそこに涙の粒は落ちていく、タイリクオオカミや南極オットセイの上に。キーウィの上、シベリアトラの上。
始まらないでいるべき関係と始まる関係がある。彼がやっているパズルと、彼女が通過してきたパズルが同じ部屋にないことが、もう全然納得できないのがおれ。ふやけてる心とこの部屋のせいだ。
私たちのパズルの持ち主になんでなろうとする、と彼女はいった。
まったくだ。去年までのおれならいま自己嫌悪で叫ぶところ。でもやらない、この泣き方を採用。
カピバラ。
アルパカ、オオアリクイにプレーリードッグ。
マレーバク、おれはきみが大好きさ。
アカギツネも。
キタリス、きみも素敵だよな。
ラッコ、ラッコ、ラッコ。
涙は落ちて行く、ある一頭の馬の上に。
上を向いて歩く会や、上を向いて叫ぶ会なんかにはおれは、絶対に絶対に入ったりしないと今日決めた。




