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我が家






 彼の買った家で私は暮らす、念願だったのかどうなのか判断がつかないままに。



 ある時期を境にして、彼のいうことは私にはよく分からなくなってしまった。彼が何かいってくるたび、彼が画図を描いて見せてくるたび、私はただ頷き続けた、私の渾沌も惑乱も後ろに隠して、彼に見られないようにするのでいつも精一杯だった。

 私は家にいて彼の帰りを待ち続けた、家に入るとそうする他にないようなのだ、彼のいない時、私は決まって蟻たちの侵入を許してしまう。



 こんな女でごめんなさい、彼のいない時に私が決まって蟻たちの侵入を許してしまう、そんな女だったなんて今まで私じしん知らなかった。



 蟻たちが這い出すのは決まって夜。

 私の罪深が花開くのも夜。

 真夜中に蟻たちが家じゅうを列をなして蹂躙していく、あの音。いつでも合計しても一分弱の、私の眠り。

 家は日をおうごとにくたびれていく、私には分かる、だから蟻の帰りを私は今日も待つ。



 私は家にいて蟻の帰りを待ち続ける、蟻のいない時、私は決まって彼の侵入を許してしまう。



 ごめんなさい、彼の舌が家を舐めて家が弱くなる、許して、許さないで、彼が列をなして家じゅうを蹂躙していく、あの音。

 私の家の外の私の中の私の家の外の家の中の私の家の私のなかで、ずうっと。



 ずっとそれが起きている。

 彼の侵入を防げるのは、私じしんとこの家だ。それでよかった。今はそれを私の頭は覚えたからよかった。

 私はこの先この家にあるあらゆる色に律儀に頭をぶつけ失神を繰返していくだろう、もう前までみたいにはいかなくなるだろう。

 もうここは、彼の家でも、泥棒の家でも、蟻の家でも、もちろん私の家でもなく、ここは誰にとってみても、家でも何でもなかったんだとしか今はそれしかいえない。一体いつからこんなふうになってしまったのか? 

 たぶん、最初から。















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