鳥と視点
よく見て、とあなた。
私はよく見てみる。すると、先ほどまで私がそうだと思っていたものは全部違う、と分かる。全然違うものだと、今日初めて気づく。
まさか、と私は呟く。
そう、とあなたの囁くのが分かる、その調子だよ。
私は興奮している、もっとよく見てみたくて、もっと知りたくて、もっと近づきたい、と誰かの声がいい、その声は私だったのかそれともあなたの声だったのか? 何にしても今私はそうすることしかできない。たくさんのことが今まさにここでは起こっているから。違う! 私はそう叫んだ、きっと歓声に近い大音量の声。あれも違うしそれも違う、ブツブツ私がじぶんに向かっていいつつ行くどんな場所にも律儀にもあなたはずっとついてきてくれる、あなたは帰らない、帰っても当然なのに。
側にずっとあなたはいてくれた、あなたは頷いてくれる、あなたは慰めてくれる、ずっとそんなふうに私と一緒にいてくれたから、季節はどんどん移り変わってしまうし、私が知るヒット曲は瞬きと瞬きの間で過去のものへと次々と変わっていて、あなたの優しさにいつまででも頼り続けている私の心の弱さだけがずっと死なずにあった、私はどうしてもじぶんを止められなかった。どうしても駄目で、全部が裏返しになった。
そしてある日あなたがとうとういうの、よく見てみてよ、ねぇ?
嗚呼今の私にはあなたがいわんとするところが何かが分かる、あなたがいう前からいついうかと待ち続けてもいただから今の私には理解できるこれを理解したくはなかった私はきっと見たくもなかった私は散々見た、私はじぶんが見たいようにしか見ず、見たくないものは見ず、何より自分じしんの姿すら見えていなかった、そんな私じしんのことを今はしっかり見た後であり、当然の話だけれども、私はあなたの姿も無論、あなただと思わないままに見てきた、それはあなたではない、あまりにも違う、だからこれが初めてになる、私はあなたを見た。
私はあなたを、見たいのかどうか分からないし見たらどうなるかも自信がなかったが、だからあなたがいるほうを向いた、あなたを、あなたのことだと思えるだろうとは、もう思わないままに。あなただと私がずっと思っていた人、ずっと私が正面から向き合えずにいたあなたとは別人のあなたのほうを、今は向こうとしている私を意識しながら私は、見た。
でもあなたはこんな私を、この顔を両手ですぐさまつかんで、強い力で位置を固定させ、有無をいわさず上向きにした私の顔が、あなたの顔を至近距離から見ているようにしたのだ。
あなたが何をしているのかが分かった時、私には少しあなたのことが分かった。そしてこれが、ずっとあなたが私に対してしたかったことだというのも。
今ようやくあなたは頭の中にだけあった絵を現実のものにしているのだろう、あなたが手に込めている力の強さが私に多くを伝える、何よりあなたの長すぎた忍耐を私に伝える。
私は涙を始める、あなたが作り出したものが今ここにはあるから。
そして、私はこれに耐えられない。
見て。
やめて。
もっとよく見なさい。
許して下さい、謝りますから…
見て、そうあなたの声はこの先ずっと、たぶん永遠にいい続けるんだと知った時が、私がようやく壊れた時。




