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夜中9時の幸せ
「ひるからほんとに何も食べてなかったからさ」
明らかに慌ててキッチンに入っていくあたし、そして朝のうちに作っておいた毒入りカレーの鍋が水につけられている様を見下ろしているあたし、そのまま何もいえなくなっているこんな状態に陥っているあたしに向かって彼はそういった。
振り返ると、その顔は食意地からくる照れで赤らんでいるように一瞬見えるのだが、だが、だがしかし、そんなわけはないのである。
「美味しかった?」
訊けば、彼は背を向けてしまう。恋人が手作りするカレーライスって幸せ気分が味わえるからどうのこうのと彼はまくし立てる。
どっちにしろ、この野郎。
「私も」
どっちに転んでいくとしても、この瞬間のあたしはそういっておく、一人で完食かいとは思ったけどね。気に入って食べてもらえたんなら嬉しいよ、私も幸せ、と。
どっちにしろ、だって、これが彼と過ごせる最後の夜中9時の幸せ。




