手を離す理由
理解の限界、体力の限界、気力、時間、そして何より愛、愛は限られているから。
全ての人に分け与えられるほど、人一人の心は、大きなものではないから。
海にできることが彼女にはできない、時折できていたとしても殆どの場合できないから。
平原がうけとめるようには彼にはうけとめられない、ずっと静かなままではいられないから。
心は全ぶ割れ物だから。
生きているその姿に初めて見た時から惹かれた、その人らしさを綺麗だと思った。
それが答えだった。
最初から答えを知っていた。
最初から最後の時が過ぎても残るたったひとつのものを、手に入れている。それでも尚、その人の側にい続ける。そんなのはごく自然な状態であるとされている。愛をしたい誰かの側で生きるをしたいと思うのはとても自然な感情。
けれども、結局は、一人の人間の側を選んでい続けることは、慈愛の精神を持つべきではない他者を作り出してしまうということだった。もっと正確には、こういう見方をすることにじぶんはもう決めました、全ての人間を見捨てる準備はじぶんにはできています、そう宣言しているようなもの。攻撃態勢ではない、だが何も起こっていないうちから既に焼死体として全てを見ているかのような、しかも地面に転がっているそれが生き別れの肉親であろうが誰であろうがどうでも良いと、全身でそうはっきりいっているようなものだった。
だから、あなたは、彼女に突き離されたのだ。
だから、あなたは、彼に見捨てられて置いていかれたのだ。




