361/618
横浜
理想を拭う手を、今はコートのポケットに入れて信号がかわるのをぼんやり待っていた。
すると、浸透してくるものがある。
彼はじぶんが何者か知っている。子どもの頃から変わらず欲しいと思っているものが何なのかも。
彼は思っていた。じぶんの一番柔らかいところがどこなのかを僕は知っていて、僕はそれらを運んでいる、僕はこれが何なのかを知っている、どこに行ったらそれが手に入るのか、誰と会って何をしたらいいのかも忘れることはなくしっかり記憶している、だって僕は知っている、僕じしんが含まれているのが一体何なのかということだって、いつだって、と。




