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美男
彼は明かさなかった、腹が減っていてもそうとは明かさなかった。あまりにひどい空腹状態でそこそこの音量で鳴っても彼はじぶんの腹がとは明かさなかった。
彼は秘密を誰にも明かさなかった。
多くの場合、彼はじぶんがどこに住んでいるのか明かさなかった。
彼は誰にもじぶんの素性を明かさなかった。彼は危険を承知の上で、明かさなかった。
彼にじぶんの秘密を明かす女や男は跡を絶たず、彼はしかしその秘密を誰にも明かさなかった。そちらの方を望まれていると分かっていても、彼は誰にも話さなかった。
彼は夜を明かさなかった、どんな夜が来ようとも彼はペースを崩さなかった。
そして彼はとうとう明かさなかった、最後の時が来ても誰にも明かさないままだった。
じぶんが一体何者であったのか、そして彼自身はじぶんを何者だと思っていたのかを。




