わたしは冬枯れ
彼に向かってこの手を伸ばす、確かに、わたし自身にもその資格はあるのかどうかはっきりしたことは何もいえない、そもそもわたしはじぶんのやりたいことを言葉に置き換えることも依然できていない、なんのために、どうして彼に向かってわたしはわたしとして手を伸ばそうとしているのか、けれどもわたしは彼にとって冬の枯れ木に過ぎない、どちらにしてもわたしは彼にとって冬枯れ、目を向けて捉えようとすることさえ彼はしない、見てみる価値すらない、何故って彼は自転車少年、わたしの前から猛スピードでいなくなる、だからだ、わたしは枝を伸ばそうとして、それをひっこめようとして、けれども彼は自転車少年、彼にとりわたしは道路に張り出した枯れ枝、わたしの躊躇が、わたしの指先が、僅かに彼のほほに触れたのは単なる事故、冬の日差しの中に赤く舞った血がわたしの下腹部に着いたのだって狙ってのことではない、わたしが目を見開いたとしても、わたしの口から嬌声が上がったとしても、何があろうとも彼には聞こえていない、彼は気づいてくれないのだ、顔に赤く入った線のことにも、いつどんな理由で傷がついたのかも彼は気づいてくれないのだ、わたしは彼のことを非道いと思う、前々から思っていた、見ない振りをしていた、でもわたしは今日この日に実に多くを見たし、やった、確かに、一瞬だとしても満たされた、わたしのある部分は満たされた、わたしはそれを認めなくちゃならない、だけど風が吹く、彼の後ろ姿が見えなくなった後にこそ吹く風が、ここに立ち続けるわたしに教えている、まだこれから先があるのだと、まだこれからもっと寒くなるだろう、夜闇がわたしを更に惨めな存在にするだろう、無情の風がわたしを揺さぶり続けるだろう、わたしは全てを感じているだろう、壊れるまで、いつもの歌が歌えなくなるまで。




