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最後に明かりを消す人
彼は明かりを消してくれる。いつだって。
僕がスイッチを入れたままで出かけることが多い玄関の小さなあの照明も、彼がいれば消しておいてくれる。
ソファで読書をしていて寝落ちした僕が、夜明け前の半端な時刻に目を覚ますと、やっぱり彼が電気を消してくれている。
自宅マンションであってもよそであってもキッチンやトイレの明かりをしょっちゅう消したのか消し忘れているのかすら、僕は記憶にない場合が多い。
どちらにしろ、僕が明かりを点けるところでは、僕自身は忘れていても彼がそれを忘れない。
いつも決まって明かりを消してくれる人。
僕の人生を明るくしている、唯一のといえる、この火だって例外じゃない。
消す人なんて彼の他にはいない。
それだけが今の僕に分かる、この道の先で間違いなく起こる、ただひとつのこと。




