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ソロウ






 あなたは、防音室であのことをやったかもしれない。やったんだとしても、と誰かがいった、おそらくやりたくてやったことだった筈だから。

 そうだろうとも、同じような思考にあなたの呑気な家族も至っていたんだろうと思う。

 そしてその考えは間違い。

 それは大きな間違いだよ、あなたがやってしまったこと、防音室でやったこと、それは、今までにあなたが築き上げたものを壊すことだった。だから今まで通りじゃなくなった。もう今は前と違う。もうあなたのことを普通に見られない。あなたがすること、口に出す言葉、奏でるメロディ、ディナーパーティーでの笑い声ももう以前のままではなくなっている。喜ばしい場面でも素直にそれらを受け取ることができない。

 全員が手出しできないところであなたはやった、あなたはきっとやった、誰からも尊重されているような存在だったあなた、この期におよんでも依然としてそこは変わらずにそうだ、第一に誰かがいっていた通りなのだ、あなたのような人があのことをやってはいけないという決まりはない、やりたくてやったことだったなら口出し無用なのももちろん分かっている、でも誰一人としてあなたにそんな一面があるだなんて想像していなかったのだ、だから全員がこの件では明らかに傷ついているのだ、せめて、一ことでもいってくれてたら、前もってにおわせてくれていたのなら。

 あなたのせい。あなたのせい、あなたのせいあなたのせいあなたのせい。あなたを愛するがゆえに、あなたを愛するがゆえにあなたを愛するがゆえにあなたを愛するがゆえに。行き場がなくてどうにかなりそうだ。

 明日会ったらあなたに対して無礼な振る舞いをしてしまいそうだ。約束も破ってしまいそうだ。



 僕らは落ちあって互いに慰め合う。

 これをごく自然に起こることとして僕らは考える。あなたのことを考えないために必要なことなのだと。あなたが変わってしまった現実を受け容れる精一杯の手段を僕らは編み出す。



 あなたはやった、あなたはきっとやった。

 そのことを考えるたび僕らの胸は張り裂けてしまうから、考えていたくはなかった。僕らのなかの何かが壊れていくから。あれからずっとそうだった。あなたがまさかそんな人だったなんて。

 けれども、同時に僕らは新しい可能性もそこに見るようになっていることもまた確かだ。あなたが防音室にいる時間について、これまで考えいなかった類いのことを考え出している者がいるのもまた確かだ。そうしてそういった側面に光をあてることについて楽しいと思わなかったのかと問われれば、僕らは楽しかったのだ。僕らはどんなあなたも結局は愛するようになっているのだ。どれだけ見ていても飽きないでいられる、あなたは本当に僕らにとって稀少な存在なのだ。悪いのはあなただった。そもそも、始めからそうだった。



 だから今日、悪い予感をおぼえる人がいるとしたら、それはあなた。

 それはいつだってあなただった。

 今日、街から消えなきゃいけないとしたら、それはあなただった。












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