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無題
手帳より抜粋
人生はまるきり短編小説のようなのだという。私にはよく分からなかった。
あなたは私にいった、見えてても見えてなくても、実際にそういう見方をしている人間はごまんといるのだといつか知ったし、それをオレは忘れてないんだと。人ひとりの一生は、長編小説というよりは短編小説のよう。
私にはよく分からない。
けれど、寛大なあなたが、気紛れなあなたが、もしかしたら魔が差して、惰性で、同情から、ただ他に誰もいないから、もしかしたら聞こえない声でまともじゃないよとたしなめながら、まともじゃない感じを確かめながら、それでも結局は私にあれだけ時間をくれたんだということ。それを思うと、見方としては正しいのかもしれないという気もしてきてるよ。
それは、長編小説というよりは、短編小説のよう。そしてあなたの短編小説だけが、あの頃の私が見つけた、唯一の人の優しさだった。