鼻呼吸
あたしはこの手で塞ぐ。あたし自身の手で、あたしの口は塞いでいるべきから、だからいつも塞がれている。
仕方のない場合を除いて、両手でしっかりと口を塞ぐ。いいことをいわないように。ゆめを知られることのないように。これ以上はもう何も知らないでいられるように。誰かの醜い過去と未来を歪めないように。好きな歌を歌うこともないように。
だってとにかくあたしはこれをしなきゃいけない、一日の全エネルギーを使ってあたしは押さえ込む。
あたしにある目的地は他の誰かのものじゃない、それなのにだ、多くの人々はそんなふうに取っていない、あたしは誤解され続けている。
あの男の子たち、口では何といおうと最後にはいつだって実力行使に出る男の子たち。
親切という名のもとに、口に貼ってあるテープを剥がしにかかる。すごく強引にだ。
連中には、あたしが涙目になっているのが見えているはずだ。いやいやとジェスチャーで意思を伝えているのも見えているはずだ。
つまり連中は解釈をするけれど、解釈なんか正しくできたりはしないのにそれをやることに対してあたしたちが感じてる問題意識なんか、一切持ち合わせてないから本当に最悪だとしかいいようがない。
あたしを理解することに努めるのではなく、ひたすら視野を狭めることに連中は努める。
逆に、とあの連中はいつだって唱えている。逆に逆に逆に逆に逆に逆に逆に逆に逆に逆に逆に逆に逆に逆に逆に逆にといいながらあたしを襲う。
あたしが呪われているという人々は男女問わず一定数いる。不思議だ。あたしはあたし自身の口を塞ぐ、それだけの日々を生きている。男の子たちの中には、あたしのことを好意的に見る人も多い。あなたは謙虚だ、といって。あなたはひとの時間を無駄にすることをよしとしないと考えている、といって。でもやっぱり、連中は張り切ってあたしの両手を最後には退かしにかかる。あなたの声が聞きたいだけです、といって。
親切という名のもとに、鼻を塞いであたしがあたしでいるのを止めさせようとする人たち。今日も昨日も、そして明日も、他人はどこまで行っても他人なのに。
あたしは、もう怖がらずに全部、この二つの光もしっかりと塞ぐべきなのかもしれない。
他人だけが振り返る。こっちが苦しんでいるさまを他人だけが見たがっている。




