僕の森の奥の僕
本当のことはいつも森の奥にある。本当のことをいえと僕にいうひとたちが世界にはいるが、だからいつも時間がかかるんだ。すごく、すごく待っていてもらわきゃならないけれどそれでもいいかと訊けば、かれらはうなずく。見せかけだけのものに過ぎないことは、経験則としてこちらも了解している。
とにかく僕は急いで取りに行く。息を切らして何度も通った道を走って森の奥へ。
僕は僕のことを本当が待っているわけではないと知っているし、かれらが本当の僕なんてものをそんなに長いあいだ待てないのも知っていた。美しく燃える森をあとにして、かれらは土地を移ってきた者たちだったから。
いつも本当のことが本当にある。それをいうときの声というものもある。
そしてたびたび僕は森の奥に取りに行く。
何を取りに行こうとしているのかわからないままに森を走っていることは僕にはめずらしいことではない。誰しもがそうなのかどうなのかは知らないが、僕はそれはゆっくりと思い出さないといけない者である。
何にしてもいつもちゃんと隠し場所に保管しておくようにしている。森の中の机の引出しに。他人ばかりかじぶん自身でも容易には手を出せない場所に、いつもあってほしいから。




