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さいごのにおい
さいごににおいをかいでいるボク。
「あたしたちはここで、これでさいご」
そう彼女がいったから。
だけど、ボクは強くじぶんをもってることができない。
一しょうけんめい、ちかづけるだけ彼女にちかづき、においをかいでいた。
ボクはずっとやってる。
なつかしくて、遠い、むかしの彼女をつれてくるにおいがあるはずだとおもって。目をずっと、かたくつむったままにして。
いつのじてんからか彼女は一こともしゃべらなくなった。
ボクは彼女の、胸のところで頭をだきしめてもらっているようなかっこうだった。ずっとこのままでいい。
でも、どこかにないだろうかと、じぶんがなかないでいられるような、きえずにここにのこる彼女はないかとボクは、もとめる。
ボクはずっとやってる。彼女のにおいをかぎつづけ、じぶんのからだにおかれた彼女の手が、おちないように、でももういちど、鼻のあなをふくらませる。
ボクは、おそろしさに目をあけられないまま。




