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 失望が、降り積もっていく。

 耐えられない。

 じっとしている時間があまりに長過ぎた、本を読もうと起き上がる。



 ベッドに入ってから五十七分が経過し、こうして覚悟を決めて彼女は、部屋の明かりをつけた。つけてしまった。



 奇妙なことだが、横になり眠ろうとするその絶対的な、どこまでも成人女性として正しい選択を無視するしか、彼女がそれを消し去る手てはなかった。

 そんな火曜日の夜にさえ当たり前に対応できることを、大人になったというのかどうか彼女は知らない。



 それに、先ほどまでこの部屋の中に降り続いていた失望は結局いったい誰のものだったのか?



 彼女は着替えをし、本人としては柔軟体操のつもりの動作をしつつ考えている。

 母親か? それとも、わたし自身のだったか?



 部屋が暗かった時には降り積もろうとしていた失望は、彼女が電気ケトルにミネラルウォーターを荒っぽく注ぎ入れる音がしている中で、当然のように消失する。

 彼女は、顔を上げて部屋の中を見渡す気も起きなかった。



 短く溜息だけ彼女はした。

 あと五時間半もすれば仕度を始めて、今日も出勤だ。もう破れかぶれだ。辛い一日になるのは確定だ。

 そこを見越して、彼女にしては珍しくブラックのコーヒーを作る。

 今のうちから頭を使うことは彼女はしたくなくて、棚にあった菓子は全て出す。今のうちからエネルギーバーもかじる。今日はもう食欲は出ない、ないものとする。

 そうして本を選ぶ前にいつものように、彼女は手を洗う。

 アラーム設定がきちんとされてあるのを確認し、アイフォーンを置く。

 コーヒーと菓子がどっさりと載ったテーブルを前にして彼女は座る。



 彼女が選んだ本は、ルシア・ベルリン作品集。

 不幸せではあるが贅沢でもある読書だ。














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