ハイ
信じてよ、と若者は辺り一帯に響き渡る声の大きさでいった、この世界にとくべつなモノなんて、一つだってありはしないんだってほんとマジに。とくべつな時間、いや瞬間だって信じんのとかやめて? とくべつな人生なんかありゃしないって信じてるおれの言葉だけ信じてよ。とくべつな輝きなんかなかった、あんたがそう感じたことがあると思ってるモンならとくべつじゃない、とくべつな存在だと思っていい他人だって一人としていないよ。ドイツモコイツモそれを信じてんだよね、それを知ってるってウソじゃなく確かに感じたことがあるって、あんたに対してそういい続けてんでしょ? 雑誌とか画像とか音楽とかで。もしかすっと心と体でちゃんと経験したことがあるって、あんたはそれを思ってるのかもしんない。だとしてももうそーゆうの、たった今この瞬間からやめてよ。おれがおれの命、この人生も才覚もまったくとくべつなものとは信じていないのと同じように。こっちにきてよ。
その間、彼女はといえば黙り通しで準備運動さえもしなかった、泣きもせず笑みもしなかった、たた少しだけ後ずさりをし、やれる限り彼が走ったみたいに走った、やれる限り彼が跳んだみたいに跳んだ。真夜中の屋外プール、彼が浮かんでいるたくさんの水がとどまっている辺りを目指して。




