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魔の山で






 麓の村の人から恐れられる魔の山に暮らしてる、みたいな化け物はだいたい、いつもひとりぼっちで。

 化け物と遭遇した人間が喰われる前聞くのはいっつもだいたい同じ言葉で。「おれ、にんげん、くう」、つって。



 でさ、仲間一人を犠牲にすることでコミュニティに逃げ帰ってきた連中も、その言葉とともに人喰いの化け物の話を広めるわけさ。

 おれには悲しいことなの、これは。



 おれは想像する。

 たどたどしく喋る化け物。それは、死を前にして恐怖で動けなくなってる人間が、何十というそいつらが、どいつも間際に発することができた言葉なんて絶対さ、似たり寄ったりだったから。

 学ぶ機会なんかあるわきゃない。



 化け物相手に喰われる心配もなく同じ空間にいられる強い人間、そして優しく勇敢な心を持つ人間は、そもそもひとりぼっちの化け物がいるだけのところよりも他に行くところがある。



 とても大切な役割が彼らにはある。

 彼らのような存在は街の中心部で生活してる。どこへ行こうと重宝されてきた彼ら。これからだってそう。優秀ゆえに敵も多いけど、多くの人から愛されている充実した人生。



 けど本当は、彼らみたいな人たちこそが、化け物と遭遇し、死を恐れて喚き散らすだけのような人たちにはけしてまねできない芸当、化け物の存在自体に好奇心をそそられて、そうしてそこで二人の間にこれまでなかった何かが生まれる、というような、そんなんが起こるべきなんだろって、おれは思うんだよ。



「おれ、にんげん、くう」



 そんな悲しい主語と述語はやめてほしいし、化け物だって変わりたいなって思ってるって、そう考えたほうが、だって、すてきかどうかはしんねぇけどおれ好みではあるからさ。













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