一月の動作たち
なにかを、だれかを待っていて夜道をいくことができず少年少女が吐き出す白い息。ただちに消える。吐き出す。ただちに消える。
でんきケトル片手に二階の自室に引き上げていく、だいがくせいの兄の後ろ姿を、少女はじっと見つめる。ソファーの上から見つめていた、けれども一体何をそんなに真剣に見て、とは訊かれなかったし、彼女自身、んなのは、こっちが訊きたいわ、とひとりごとをいい、とどのつまりは退屈な正月の朝。しんとして暖まることがないリビングで、腕の中に収まっているくまのぬいぐるみに半ば顔を埋めて。顔を伏せたまま庭の見える窓のほうに向かって、毛むくじゃらの腕をちいさく動かし、じゃあねバイバイ。
「十二月を振り返りそうになりながらも、十二月のことを今また振り返りたそうにしながらも」
スパイラル、推理の絆。
一人の少年が今年一番太った財布を持って、深夜コンビニに向かっている。途中、手を、彼が後頭部付近にやったのは、フードで外気に曝されている耳を隠したかったからなのだけれども、少年の手は、何もない空間をほんのしばらくの間さぐった。
長期休暇に入っているため外気にふれるのは三日半ぶり、それも十センチ未満、物凄い着膨れ、何はともあれ今日も今日とて、狭いベランダに出るベテラン。
手を片方ずつ交互にポケットに入れたり出したりしつつ夜道を歩く。
彼らはあからさまに相手の格好をじろじろ見るが評価はしない。あまり被ってはいけないと思うから注視し記憶しておく。ヘッドフォンなどはともかくマフラーの色や服の色が被ると回避不能のダメージを受けたり与えたりしてしまうから。兄弟の間で、同級生の間で。
同じ部品ばかり集めてしまう手、健やかな手。
苛立ちのまま音を立てて戸を閉めた手。
にげて、と少女らしくちゃっちい手がベッドの上の空間を闇雲に動く。逃げるのよ、一月の動作たち。
肉饅頭の下の薄紙を熱心に慎重にはがしていく手。
願うこと一つないくせして手を合わせてしまう少年たちの、許されている手。
あんなしたいやきを選んだ手。
じっとしている手。
あの時何のために傘を差していたんだろうといつか遠い将来に思い浮かべることになる固い手。
また、塞ごうとする手。
勝つことも負けることもなかった手。
ちゃんと、暖炉に背を向け歩いていく。
「後一周いいですか、相性分かるまでもう後一周だけ」
うなずいてから、かつての一月の先輩のうなずき方をしてしまったと彼は思うが現に今彼はそうなのだ。
彼にしては珍しく目の前で冷めてしまった彼のスープのために、今彼はオープンする。
私は傘を差してちゃんと、限定する。
そして今、もう残り少なくなった一月の中で佇んでいる彼女の動きは、目に見えはしないが疲れを知らないような川。
元二年A組のクラスメイトだった女の子は彼女にいった。
「袋から転がりでてきたときの、体勢? それによって、誰だって毎回違うと、ずっと思ってたんだけど。その顔からしてうちの普通って、あんまそうじゃないもしかして?」
本日の見とれ方が降ってきます、きましたか、きますと画面越しとはいえこっちを見すぎな女友達はいった。
「うえから、くう、いたくしない」
仮面予報士を目指していると彼女が知っている男の子はいった。
「こう、しっぽのとこをさ、ぐっと握って苦しそうになってる、の見下ろした後の、僕の中のまだ壊れていない部分だないわゆる」
毎日が日本学校保健会推薦の清涼水をごくごく飲む日々です、といった風情の彼女と同じバイト先にいたことがある男の子はいった。
「頭一択すね。おれほんと、頭良くなりたい人なんで」
まだ彼女が頭がおかしかった頃に、頼んでもいないのに故障中だった何かを直しに彼女を訪ねにやってきた叔父はいった。
「こう、突進してきてるふうにさがばちょと」
天使に触れそうな春顔の男の子はいった。
「ノーモアドラマだよ」
意外性の欠片もなく吹き渡る風に身震いしながら信号待ち。
愛されている人影、老犬だけが見ている人影。




