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優しいこの世界で






 貝は閉じる。

 土地は荒れる。

 ストレージは計算されないでいる。

 凧は落ちる。

 紅茶は濁る。

 階段は遠ざかる。

 後部座席で滑り落ちたアイフォーン。

 十代にとっての重大事。

 花瓶は、最初から最後迄ずっと花瓶。

 優しいこの世界は、二つあるものには全然優しいわけじゃなかったから。



「ねぇ? 何もかも今に始まった話じゃないって内心理解できてはいるんでしょ?」

 そう彼女はいい残して今夜もまた出掛けていく。

 僕を一人ここに置き去りにして。ハグすらなしで。








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