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壊れている時計にかんしていえること






 それの大きさは、彼の大きな手で覆われれば、意味をなさなくなる程度のもの。

 それに四角い、暗闇の中、何度手の中でひっくり返して顔を近づけ目を細めて見たことか。

 そしてわりにうるさい、小柄ななりをして秒針の動く音はしっかりと真夜中、狭いこの居住空間いっぱいに響かせていた。



 今それは死んでいる。一時二十三分四十六秒を差したままで。

 わたしには、もう何故この時刻で止まっているのか思い出せない。



 実際わたしの考えていることは、役に立たないことばかり。

 この時計と二人きりで。

 彼に置いてきぼりされた者同士で、馴れ合いなんて絶対良くないのに。



 とはいえ捨てるべき日は今日じゃない。

 大体わたしは唱えてしまう、彼がもしも、と。

 もしも、もしも、もしも。







 壊れている時計にかんしていえること。

 これを買ってくれた人がいる、ということ。

 そしてその人は、もうもしかしたら目の前には現れることが二度となく、またいつものように記憶しか結局頼れるものはないのだと、飽きもせず考えているということ。夜中になると特に。



 その人は他の誰にも似ていない、ということ。

 洗濯物は揺れなければならなかった、ということ。

 それと万歩計。彼が手紙に書いてくれた、ヨーカイザーとお兄さんの話を、わたしは覚えている。



 わたしが彼に本当に読んでもらいたいと思っていた唯一の作家は、カヴァンで、だから全部始めから駄目だったんだということ。

 今は両の目をずっと覆ったままで過ごしていたいくらいなのだということ。

 願えるわけない、わけない、ってこの部分もう刺さって刺さって刺さって、刺さって、刺されてるのはわたしの自業自得だ、ということ。



 好意なんかは遠くに見えている岩。

 車の後部座席から外の世界を見、コントロールできることなど一個だってないんだって悟る少女が一人いるだけなんだ、ということ。

 わかってたことだ、世界はおやすみの練習場。

 だけど何度も何度も思い知らなきゃ駄目だっていう、そのこと。



「馬鹿みたいな季節」

 二人声を揃えてそういい続けたんだ、ということ。

 それはもはや昔話。

 なのに、その中にまだいる、ということ。



 彼のわたしへの言葉は最初からどれも、姉が春にはいなくなる弟のために編むマフラー。

 わかりきった答えを、いつ拾うのかが重要。

 いつどの駅のホームで、くしゃくしゃにされた紙みたいにへたり込むのかが重要。



 その謎の駅のある街できっと彼が暮らしていて、それは悲しいのか何なのか見定められない、こちらにはそんな資格が失われているという事実。

 これにずっと響いてほしいと心底思っていた、それと同時にあれもこれも限りがあってほしいと思う心があり、楽しかった夜のこと、遠く感じない日が確かにあることを学んだ心こそが最も厄介なやつかもしれない。

 こわがり、もちろん。

 でもそれなりに理由はあったし、変われない以上はそこにいるしかなく、あの日の心をもはや夢見るくらいだ。あの日の下手くそな片付け方をもはや目指すわたしだ。

 わたしは本当に、何もうまくやれたためしがない。







 こんな部屋に今流れているのはホールジー。

 閉め切られたままのカーテン。



 ふわりと舞い上がり、そして屋根から滑り落ちていく枯れ葉のような色合いのある日のわたしの願いごと。

 冬期講習で初めて一人で行った市の中心である駅で、わたしが本当に落としたものは、もちろん十五の冬の願い方だった。



 わたしは忘れられない、わたしは今笑う。静かに。じぶん一人だけの部屋で。

 今誰でもなくて、笑う。

 だって誰でもないから、本当に全く誰でもない。

 誰でもないよ、誰でもないあの笑い方。

 この笑い方だって、そういうこと。



 そして、壊れている時計にかんしていえること。



 春を迎えた彼にはどうでもいいことなんだろう、彼にとってはどうでもいいことの一つ一つが今のわたしの生活。

 どれも全てもう絶対、彼にとってどうでもいことの積み重ねによって成り立っている、わたしの生活。














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