政略結婚
私にはゆめがある。いつの日か、必ずあの男にとっての最後を、一人娘であるこの私が贈るのだ。
私が初めて男のことを捕まえるのだと、そういい換えることも可能だろう。
私が捕まえた男のその亡骸は、どこかの街の中央広場で、目立つ木の一本でもあればの話だが、真夜中に吊るしておいてやろうと私は思っている。
男の体を吊るして、全てを曝してやる。そうやって私は開陳する、そうなのだ、明らかなその事実を人々は忘れてしまいがちだ。男が何を求めていたか、そして結局のところは何を心に秘めていたのか、そんなのは無関係だった、あの男の行いの結果としてのこれがあるだけに過ぎないという、そのこと。
私は示したい。やらざるを得ないのだという、そのこと。
男の瞳に映ったものが、最後何だったのか。それを、男のことを知る全ての人間が目にすることになる。
動かなくなった男の、穴だらけの身体がそれを、これ以上にないやり方で見せる。
動かなくなった男に注がれる目、目、目。
そんな光景をこの手で、私一人で作り出すのが、私のゆめだ。本当の私の、ゆめ。先のことなどなんにも、と普段は口にしている私の、本当はちゃんとある、この道の先にある私じしんを待っている、私のゆめ。
話を聞き終えた彼がいう。
「俺にもゆめがあった」
続きを何となく待っていたのだが、彼は黙々とフォークとスプーンを動かす。
私は、私たちの食卓から色が一つ一つ抜けていくのを十分なだけ眺めたと考えられるまで眺める。それから私は彼の顔を真っすぐに見る。あなたにも昔あったあなたのゆめ、それはどんなだった、代わりに何を捨てた、適切だった、それともあなたがみるべきではないものだった、あなたがゆめをみることじたいがそもそも間違いだったと?
彼が、私の口元に長すぎる時間ついていたソースを拭う。
使った指を口に含んで、味を読みつまらなそうな表情を浮かべる。
どこにも、ここにも愛情なんてもの一欠片も落ちていたりはしないのだ。私たちの静かで、どこまでも正しい政略結婚。
私の顔はとてもスムーズに、満面の笑みになる。




