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雨
素敵に逃げていきながら彼らは、覚えてろよと怖い顔でぼくに向かって叫んだので、ぼくはちゃんと覚えていようと思い、爪をじぶんの腕の内側に食い込ませ、傷つけておく。
ところで、反対の側に立ちさっきから何ごとかをこちらに向かって喋りかけている人は、一匹狼ふうのヒーローで、ぼくに覚えてろよとはいわない。
肩をポンポンと叩く、大きな男の人の、大きな手。やっとぼくは動く。ポジションを少しずらして、その手を肩から退かせる。
先ほどは、危ないところだった。間に合ってよかった、ほんとうによかった。その人は優しく語りかけていて、ぼくの身を案じていて、ぼくは一切言葉を発しないままでいて、そしてぼくのほうからこの場を立ち去る、今ここは雨だから。




