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冒頭の容疑者
冒頭の容疑者が忘れ去られ、皿も全て片付け終わり、明かりが消え、新進気鋭のあとを追わないといけない人々がどやどやと移動していく。
このおれの頭でさえも思い出せなくなってた、冒頭の容疑者がどこの誰なのか、どんなストーリーを背負って現れたのか。
だから、せめてここに残ってテーブル下に隠れているおれ。帰りが遅くなりますと、連絡をうちに入れている隙に、また一つ、手がかりは失われている。
おれはくっそぉおおおおおおおお、とさけびながら床に頭を擦りつけていた、火がつく。
冒頭の容疑者の、最後の一本に、火がつけられ、彼の顔を見るそれが最後のチャンスだったのだけどどうやらそれさえおれは見逃した。
謝ることも、手を伸ばすことも許されない気配。
「おれあなたにワッフ、ウェッヘッ」
煙を顔に吹きかけられて、咳き込んでいたら、それで終わり。
おれはひとりぼっちだ、ここでおれは何者でもなく、欲しいものの名前まで失って、へたり込んだままでいる。
そうして誰かの何かが消えていく。




