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モブ
仮面の男がバイト先にいる。社員は注意しない。どうやら本当に僕以外には誰も、男のその正体には気づけないらしい。
シフトが奴と被っている時には、僕らは外に行きながら殴り合うことになる。必ず。
僕は、お前キモい! といいながら、奴は、困ったやつだなキミはというポーズをとりつつ。
僕は見かけるなり殴りかかっていく。キモいキモいキモい。いいながら、殴ったり殴られたりした。
あと最近、全く喋ったことのない部外者からも僕は結構殴られている。
僕としては、キモいから、そいつを殴る、その顔を殴る。それだけの話だ。僕にとっては僕の拳が何を変えるかどうかさえも、まるで関係がない。他の誰かの目に映っているあの男が、どれだけ好青年だとしても、それも僕がじぶんを止める理由にはならない。
ひとの目は気にしない。僕はああいう存在を見ると殴りたくなる、そんなシンプルな話。




