電話台
私たちの毎日が忙しいものだということなら、私たち全員が理解している。私たちの体はあちこちでぶつかる。心を入れ替えることはなくて、じぶんたちの手で守ろうとしたのもたんなるポーズに過ぎない。すべてのものが私たちの手から逃れることだけを第一とし行動を続けているみたいな、そんな気がする。守るに価するものではない気がしてくる。間違いなく、大した価値もない私たちの心と体。文句をいう声からはせめて遠ざかりながら今、守る気もない口約束の類いとしてそれは認めなければと、過去の怪物たちから要請されている。一人でいようとする時に限って鳴り出すと分かっている電話台の上の電話をじっと見つめ、結局考えがまとらないままで暮れる空に押し潰される私たち。まるで、無数の蛇が部屋にまで侵入し足元にいるのが当然であるみたいな、そんな感覚にここ最近陥っている。日に日に、私たちの目は物や人の正確な形を私たちに伝えなくなって、私たちがその場しのぎに微笑みを浮かべないことだけが、正解だ。私たちの記入がない持ち物は持ち逃げされる。記憶のなかでは、拾わなかった、と確かに自分でじぶんに教えていたものが、ある日、引き出しの奥に隠すようにしてあるのを知る。隣人に聞こえないように、じぶんの手でしっかりと口を覆い咳をし続ける私たち。ここから逃げるとする。でも、今日に至るまでずっと、じぶんたちの生まれ育った国ですら気に入りの場所を見つけられなかった私たちのままで? 一体どこへ?




