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事件






 俺は俺が見たとおりのことを、すべてをありのままに、今からちゃんと話したいと思ってます。






 いわなければならないような、口に出さずには済まされないような言葉は、一つもありませんでした。


 何も、燃え上がったりしませんでした。

 直接、手で触ろうとした者はあすこにはいませんでした。一人も。






 誰も風なんて感じませんでした。断絶はなく、貫くものもなく、タイミングというものを誰も思い出しませんでした。線は、引くには辺り一帯が辺り一帯すぎました。


 瞬きだらけでした、あの時。

 尊くありませんでした、何一つ。






 窓を割って逃げる、誰一人そこは考えつきませんでした。

 飛び散るものは一つとしてなく、血は流れず、でも足元ばかり誰もが見ていた気配があったあの時、辺りに転がってたのはたぶんだけど、つまずく原因には本来なりそうもないものばかりでした。つながり予測や、大人になる前まで一緒にいたいだとかいう声や小さい影、僅かばかりの荷物に、ルール、助走、それから防衛本能も少し、こわいなんて気持ちも少し。


 それから弛緩への怯えがあり、ただ時間への怯えがあり、あとそれから、ただ揺れたいだけみたいに俺らには見えていた夏草を共有してるんだっていう、なんでその時にそれが浮かんでくるんだか分からないと思うような記憶。






 あれは逆光のせいにはできないし、砂が目に入っていたりもしてなかったし、あの場にあった眩暈はどれも何か呼んだということもなかったです。握り締めていたものは開かれず、一切のことが開かれず、連中はだから、半信半疑だったんだし、じぶんたちの顔が消える時の苦しさばかりが見えていたんです。名づけることは絶対にできないっていう。たぶんだけど、そういうことに過ぎなかったんだって、今の俺は思うんです。

 誰かの顔を伝った汗が、そういう光り方をしたんだって。










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