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見えない星






 続きを君は始めた。

 店を出てから僕のアパートに来るまで一時的にどこかに行っていた涙、その続き、悲しみの中にいること。大切だったものを大切に思っていてはもういけなくなったというそのこと、じぶんの心にここまで裏切られることだってあり得るんだということを、何度でも知り、涙でしか無理だなんてそんなこと君だったら全然ない筈。君自身もそう考えるのだけど、やっぱり涙だった、それは君の涙だった。

 でも溢れる涙を止められないままで君は同時にこうも考える、世界中で、今も昔も、それにこの先の未来の人たちでさえも、流しているに違いないこんな涙、と。溢れ出して、流れ落ちて、そして乾く。誰のものでもないし誰のものでもあるような涙。



 だからだ。

 君の泣き方はすごく静かだった。壁に寄りかかるようにして泣く、そんな君を僕は床に座らせる。

 狭い玄関からの上がりがまちで、もつれるようにしていた。僕のほうが照明スイッチに手を伸ばそうとした時の、それに抵抗をするような君の動き。

 結局、今夜はせっかく二人で会ってもろくに会話も交わさないまま、君はこうして悲しみから泣き続け、僕は君のどうしようもない状態から目を離せない。夜じゅう君の一番近くにいて、だけど、それだけ。言葉が見つからずにいる。今晩ずっとまさかこんな調子か、と駅前通りでの僕は君と並んで歩きながら内心焦っていたのだが、そのまさかだった。



 長い夜が続くなか、僕のできたことは、君の手をとったことぐらい。すると二人はようやくのことで、そこから抱擁にすることができる。

 君のからだを抱き締めたら僕も悲しくなってしまった、言葉もなく触れ合うからだろうか。

 僕はもっと強い腕の力で抱き寄せ、僕は思う、君が、生きたからだを持った、一つの柔らかい場所でしかないからこうなってしまうんだろうかと。その場所に落下していくもののせいで君は弱って泣く、単純で怖いことだ、それは。普段の君を君に思い出してほしいと思うことは、僕の我儘だと今さら気づく。

 今夜の君は情けない、小さい、押し潰され道端にいるのが似合ってしまうほどに余裕ゼロで、僕は離せない。

 君のほうまで、僕の胸を借りて泣くことに何ら戸惑いを感じていないことで、こちらのほうがもっと不安になる。

 もうこのまま眠りに移行したって構わないと、僕は抱き締める腕で伝える。側にいることが許されるのなら、君を離さないと伝える。何も気にしなくていいから、誰も、何も見なくていいからと。ここでは無理に泣き止むこともしなくていいからと。














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