お兄ちゃんの顔
今夜の彼はやけに態度が柔らかだった。こんな遅い時間に、しかも事前連絡もなしに部屋まで来た僕をさっさと中に入れて、コーヒーを用意し、その間に一つも文句が飛んでこない。
今彼の住んでいるここは、実家から出て二つめの部屋だと母から聞いていた。
おそらくだけど、独り暮らし。怖いぐらい物が少ないせいで広い部屋。
出てきた熱いコーヒーに、ミルクも砂糖も入れていいからという許可を出すと彼は、流していた音楽まで消してくれた。信じられない。
でももっと信じられないことが起こる。
スマートフォンを操作していたかと思ったら、電源を切る。投げるようにソファに置くとこっちに来て、僕の向いに座る。
「スマホ」
「は?」
「あぶなくない、ソファの上とかだと」
あぁと口の中でいい、僕の前でいつも見せていたあの面倒くさいという顔をようやく見れて肉親としては殆ど安心してしまう。
また立って取りに行く彼の動きをもう見ないようにし、僕はカップを包んでいる手を見る。四年、離れて生活していた。そんなのってもう他人同士みたいなものだ。
ゴトという嫌な音を立ててテーブルにスマートフォンが置かれ、ふたたび彼も椅子の上に落ち着いた。見なくても分かる。強い視線。
甘かった。




