乾いている友人
ほら、と彼が指を僕の口内に潜り込ませながらいう、こんなに鋭い牙がある。隠し持ってる。おもっていたとおりだ。
それはいきなりそうなっていた、彼は僕に断りもしなかった、人があたり前にやることをやっているんだからといわんばかりにだ。入ってきた指は二本半で、それはせっかく乾いていたのに唾液にまみれてしまっていた。
午前一時過ぎ。俗にいう深夜テンション、というわけではなく、大体いつも友達はこんな感じだ。
ただ恐ろしいのは、こちらが咄嗟に何を頭の中で展開させるか、何が膨れ上がるのかを、分かった上で指を入れたのは明らかだということだ。計算ずくで彼は入れてきたんだと僕はすぐに思い、彼は彼の清潔をどうして投げ捨てるのか毎度のことながら分からない。僕は極端に手を水に濡らすのを悪いことのように感じる。手を洗ったらすぐに拭う。乾いていて、石鹸のいい匂いのする二つの手を見下ろしているとほっとするという感性は備わっているのだけど、長風呂は悪人のすることのように感じる。プールで泳ぐこと、素手で皿洗いをすること、どれも見ているだけで我慢ならない。
そういうことを考えているうちに、まだ僕の口の中に入ったままの指のことを思い出した。あってはならない位置にある彼の手首をつかみ、引きずり出す。その右手をつかんで離さないようにしたまま、ティッシュペーパーで丁寧に拭き、ウェットティッシュも使う。床には雑誌や丸めたティッシュが転がっている。僕のしたいようにさせている彼は、見上げるまでもなく、ひっそりと笑みを浮かべているにちがいない。




