女王と兵士
床に額を擦り付けた彼の髪は見ていて物足りなさをおぼえる。こういう時ばかりは髪の長い女のほうがいい、毎日丁寧に洗われ、乾かされて美しく保ち続けられるものだからこそ、汚しがいがあるというもの。それに比べてこの男ときたら、と手を伸ばしながら考える。短い髪。やはり手で持ちにくい。ごわついた黒髪、若い男の髪だ。額には土と汗。舌打ちをした。手を離した。男は顔を上げていいのかどうかもわからず、下を向いたままでいる。それがまた面白くない、まだ、恐怖感で身を竦めているところまでは行っていないのだ。判断力がまだ残っている、この期におよんでそれに何の意味があるのかも分からないだろうに。だから次は片耳に触る。若い男はびくりと身を震わせた、明らかな動揺の様子を見せている。ゆっくりとした動きでその耳の形を確かめる。あらかじめ男にシャツを脱ぐように命令し、這いつくばるように命令しておけばよかった、と思う。男は震えている、よほどこちらに触れられるのは抵抗感があると見える。何という想像力の欠如。終始黙りこみひれ伏したままでいればこの場を無事にやり過ごせると、まさか心から信じているわけではないだろうに。息のにおいと音さえ抑えられれば、といったような様子。一つ勝機があるとするなら、この男があまりにつまらない存在であるがゆえ、こちらを白けさせるという事態だろう。
「何だか気に喰わないな」




