忍者屋敷
生まれてからずっと同じ一軒家に住んでいる中学校でのお友だちが、忍者屋敷であることを理由に、わたしをおうちに招いてくれません。
このことだけが、わたしの唯一の彼女への不満点でした。
わたしだっていいました、何回も大丈夫だって、あなたの全てを受け容れますからって何回も何回も、何回も。
「忍者屋敷がたべられないものってなんだか、あなたわかる」
「わからないわ、なにかしら。わからないわ」
これでこの話はおしまい、という時の彼女の微笑み。
わたしにはどうすることもできません、だって彼女はスペシャルなお友だちですから。
彼女には一人、弟さんがいます。
ですが、彼女じしんは肉眼で弟さんの姿をみたことがありません。
彼女がいうには、弟さんとの文通は嘘偽りなく楽しく日々の喜びなのだそうです。
彼女には、弟の成長していくさまを目に見えて感じたかったという願望がありましたが、胸の内にしまい込み口には出すまいとしている、それをわたしは知っています。
ですが、言葉にするまでもなく、わたしたちの意見はおそらく一致するのではないでしょうか、姉弟が手紙を介したやり取りしかしたことがないまま、互いの成長を見せ合うどころか面と向かって話をしたこともないままに、同じ忍者屋敷に住んでいる、それがどんなに思春期のただ中にいる彼女たちにとり幸いだったかということは。
加えていうなら弟さんはもしかしたら弟でないかもしれません、くノ一という可能性も大いにあるのです。
これらのことが姉弟に、姉である彼女の人格形成に影響を与えているのはまちがいのないところでしょう。
その語り口に、その目に浮かべた優しい表情に、彼女の言葉にしないものが現れているとわたしは感じます。
わたしにも歳の近い兄がひとりいますから、彼女の話は分かる部分がちょくちょくありました。
でも、とわたしは思いますし、話が途切れた時にたびたび口にします。
「わたし、あなたの置かれている環境が羨ましいとは感じないの。不思議」
「なにも不思議じゃないわ、こちらからしたら」




