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その肩






 もしかしたら本当に世界のどっかにはその肩だけをすきでいつづけてる人たちもいるのかもしれない。彼の横顔にすら恋をしない、そこはおれらと一緒だ。その肩にこっそりと頼ってさ。いや、頼ってしまうといういい方も正確ではないぐらいだ。なにしろ彼ら彼女らには、その肩だけしかない。ずっと、ほんとにずっとさ。肩だけ、いつも、いつも、いつも、彼らに残されているのは肩だけ。その肩だけ。その肩だけ、なのに、嫌になることすら許されない、だってこれはそういう恋で、彼女らはそれぐらいならじぶんに許せた。ほんとうに肩だけで、肩だけ、肩だけだ、その肩だけ、肩はその肩だけなんだ、真剣だ。そうだよ、ちゃんとあっていつも彼らには、二つ手が彼らにはくっついてるよ、デスクに手を彼らは置いた、震えないように、必死に、彼のいるところでは死んでる平静をどうにか装う、そして、でも、その肩に手を置くことを許されてる一人がいて、それでも尚その肩だけ、肩だけ、肩だけ。

 だって彼のことをすきだから。

 彼のその肩のことがとても大きい、いつもいつまでも。

 だってはみ出してくれたのは、許してくれたのは、頼らせてくれたのは。

 きっとそうなんだろう、彼らもきっとおれと似た体験をしたと思う。

 肩、肩肩肩、肩。それがいてくれた時間へ、それがいてくれた空間へ、その分だけの、それに見合うだけの、そんなものはない、初めから終わりまでずっと、何一つ。みんな分かっている、じゃなきゃ分かっていくしかない。肩だけだ、濡れるしかなかった肩、がっしりとはしてなかった肩、頼りがいがあったわけじゃない、おふざけをしたり遠慮がちであったりもしない、ふたりぼっちになってくれた肩だ、いくら見つめてもたりなかった。顔は、あまり見られなかった、しるしはそこにあった気がする、構わないといわれたようにも思う、でもどっちみち返答をする気にはみんなならなかっただろう、肩だけでいいと思った。それって随分前に決めてた、決まってたというんじゃない、誰でもないじぶんが全部やったことだってそこで気づくんだよ。

 一回だけ彼はおれを頼ってくれた、肩を落とし、あの日彼は弱かった。でかすぎる後悔を、そこにくくりつけおれはそこから立ち去った。

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