異臭
町の女たちにとっては忌々しい事実なのだが、探偵が重宝されているのは確かなことだった。あってはならないことが町のなかで起こってしまう夜がある。大切なのは、町の大人たち全員が、それ以上は波立ないように、子どもたちに影響がでないように早急に事態の収集に努めなくてはならないということだ。考えるべきことは他に何もない、どの人生も平穏無事に過ぎていったらいいのにと思いながらも、彼女たちが口に出さないのは、夢いっぱいの少女のような考えは捨てなければいけないのも薄々分かっているからだ。
とはいえ、到底彼女たちには看過することができない。限度というものを知らないのは探偵のほうだから。
その四十過ぎの男が立ち止まると、その、それも、大きな身体を休めているように、町の人々には見えていた。
探偵は臭った。
もしも事件現場でではなく、昼間にこんな常識はずれな探偵と行き違ったのなら、こんな葛藤に彼女たちが陥るわけはない。
「ここはあなたのいていい場所ではない」
たとえ我が子の手を握っていようが自制がきかずにその探偵にいい放ってしまう可能性。
それは、いつも大いにあった、いつも全く下がることなく。
けれども誰も男とは、厄介ごとが持ち上がっている場でしか顔を合わせていないうえに、一部では、きつ過ぎる男の体臭も弁護する余地のあるものとされていた。
女性なら、目眩に襲われつつも、男性なら、落ち着きなく部屋のなかを歩き回り、探偵との会話になんとか集中しようとして。
どうしようもない吐き気。自身が二本の足で立っていられることに対する不思議。
全部が全部、探偵のせいではない。この町での数少ない理性が、探偵を探偵として扱うからこそ、彼は探偵として存在し続けているのだった。
徐々に、探偵について語る言葉を彼女たちはなくす。
煙に巻かれるとはこのことだといい合う。
どんなに探偵が町に必要な存在だと夫たちに聞かされようと、関係がなかった。
当然のことながら、探偵の現れるような場所ではすでに臭いどころの話ではなくなっている。
また、後々になってからの事件についての会話のなかでも、関係者であれば表立って口には出せないいくつかのことがあるはずだった。
そこのところにつけ込んでいるのが、あの探偵らしいといえると彼女たちはみな思っていた。
どんな事件の臭いよりも強い異臭のする、探偵の男。
一人の時でさえ彼女たちはそれについてやはり考えてしまうことがあった。
異臭は嫌なものだ。探偵は嫌なものだ。
この町から出ていってほしいと思うことを、いつまでもいつまでも私たちはやめられそうにない、と。




