夏期休暇前日
五月の蝿つまりオレらの前方を上手く歩いてた単独行動中の女子が、虫採り網を一本、悪戦苦闘の末無事口から出し終える。
成功なのこれは失敗なの、知らね、とにかく一人の女子の口からそいつが廊下の床に落ちてからんっという音を立てるのをその場にいる全員が耳にしたのは同時、いや同時にとかそんなん当たり前なんだけどそこが出来事のこわさってやつだと思いますまる。七月。あ然としてひたすら立ちつくしているだけのオレらだが女子のほうはいきなりダッシュでこの場から去ることを選択。まぁでも気持ちは分からんでも。男の目があるとこで、汚い床に両手をつける両膝をつける、ぶるぶる震える泣く、スカートの中もさらすし、さらには「おえっえっぶぅっはぁっあがっあバぅヴぇるぇぇぇぇっおっかっパっうぉぇオカッパぁらっだっヴぅぅぅぅぅっ」、トドメに出てくんのが虫採り網てお前。気持ちは分からんでも。
たぶん女子だったらさ、今オレがいったのはどれも実際にはじぶんたちなら目にしたこともないって態度をとりたくなる、距離をとりたいものばかりだろ。
で、どうすんだこの重苦しい沈黙。どうすんだ、どうすんだってそればっかなオレってゆう。やっでもどうすんだって話ですよ。
女子の消えた今はもうなんかオレらの問題みたくなってる虫採り網及び、この、なに、オレたちを。オレたちをオレたちがどうにかしないといけない、オレのための、目と鼻の先にあるオレの夏休み、があったのはさっきまで。ぴかぴかの晴れ渡った空みたいなまだ全く削れたところがない夏休みが広がってた、オレそれに向かって着実に歩を進めてた、あの一歩一歩、大切で、軽くって。なのにみんなさっきまでの話になっちゃったよ返せ返して返してよってか虫採り網てなんなん夏い。
だが女子がこれを吐いていった。どゆことだよ。
そいつは今、ぽつんと落ちたまま四人分の視線にさらされている。
虫取り網。うん、見れば見るほど夏い。
あとあつい、廊下暑い。
流れた汗が床にまで落ちて跳ねる音がした。




