この世に悪の栄えたためし無し
彼は動こうとした。だから撃たれた。
彼の本当の目的はなんだったのか。帰りたいと願う場所が彼にもあったのか。彼じゃない彼なんてものが実際に存在していたというのか。存在していたとして、彼に隠し事があったとして、それが彼が私たちを裏切っていたのだという充分な証拠に本当になりえるのか。本当にその正体は私たちの敵だったのか。
それともやはり彼は彼じしんがそういっていたとおりの人間、そう見ようと思えば見える、今はそう見える、それが彼にもわかるから、だから今は味方だと胸を張っていうことはもちろんできない、彼はそう叫びたい、だけどそんなのは彼じしんにもとうてい容認できない、私たちの味方だと口に出していうだけのことにさえいかに私たちが多くを要求するのかを彼も理解していたからだ、だから彼は口を閉ざし続けていた、だから彼は私たちが畏怖する存在でい続けていた、もう今はそれぐらいしかわからない。
本当のところ彼はなにを思い、なにをいおうとしていたのか。なにかをいえるとしたら、なにを真っ先にいいたいと彼は考えていたのか。彼はなにを望んでいたのか。望んで留まり続けたというのか。
彼にとっての一番とはなんだったのだろう。この国は彼の目にどんなふうに映っていたのか。




