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君のせい






 だましだましで今日まで来られたならもれなく悲しいベランダだ。僕はこの狭く悲しいベランダで蹲ってきちんと風に揺らされてる洗濯物を見上げる。あらゆるものから遠ざかって。そうして遠くはない記憶、記憶というよりは接近、そんなものにいつも容易く殺られちゃっているんだ。趣味は、時間殺し。ほんとに正確に喋ろうと思っているんなら僕はまず真っ先にそういわないといけない。


 だけど動く気になれない。

 剥き出しの足指をぐにゃぐにゃとやる、頭の中にあるぼんやりなイメージとどれだけ離れている動かし方をじぶんがするのか見てみたくて。

 生きる意味とか。

 と思えば、巻き付く何か。









 君が僕の部屋でわざわざ彼氏と電話口で一時間近く口論するところを見せた夜から三日。そう予告はしてたけど本当に何の音沙汰もなくて静かすぎる毎日だった。これじゃ目を閉じていても閉じてなくても変わらない気がする。だから僕はほんとに目を閉じた、更に床に転がっていることにし、意味もなく腕で顔を隠す、部屋に一人だっていうのに。

 今かかっているのは「バズカット・シーズン」、僕と君の気に入りの曲は「リブズ」。

 でもぼんやりしていていつの間にか聴き逃していた。

 過ぎ去っていくだけの時間。

 窓からの陽の光が全然なくなると、違うと、今の感じは雲のせいではないと、僕は思いたい、君のせいだと思いたい。それなら僕も楽になれる、でも今日に至るまでまだ一度として僕は君が乗ってる飛行機というものを目にしたことがなかった。そいつが僕の見ている空を飛んでいるさまを。僕には分かる、それを目にする必要が僕にはあることが分かる。そうしていつか必ず僕はそれを見ることになる。嫌でも僕はその時がくれば見ることになるんだと。

 本当に本当に僕は最低の男だった。

 さっきまで死んでいたスマートフォンが部屋中に響く音で鳴り出す。大学で一緒のやつからだ。









 部屋の隅、死んだ振りを続ける。

 今日も昨日と似たり寄ったり、ずっと目を閉じていたら疲れる。

 聴きたかったのは、『ブルー・ネイバーフッド』。俺様ティーチャーのドラマCDじゃない。

 今は一人の部屋で、こんな僕の部屋で。

 腹立たしく感じていた君の癖がこれだった、ケースにどれもしっかりと収まってしまうことがわるいと考えていたのも僕は知っているけれど。









 あの晩の君はいった、転がっていたプラスチックのコップを眺めているだけの僕に向かっていった。

 天国までの階段を私たち傷つけられもしないけれど、という意味のことを彼女はいおうとしてたのだと思う。

 ここにいる私たちの物語はいくらだって汚していいかなり殴り放題なのいくらだって殴りつけ唾を吐きかけてドリルで穴だらけにして構わない。

 いつも、いつも時間を無駄にすることだよ。これまでだってそう、いつも同じ。時間を無駄にすること。それはまるで、私たちの掲げる共通のテーマでもあるみたいにね、常に、常に、時間殺し。ただただこうしていること、無為に過ごすっていうこと。


 やがて僕は酔いがまわり彼女のほうも様子が怪しくなってきており二人の間で浮上してきたのは、コッペパンだった。

 時間というものを話題に出すなら勿論触れぬわけにはいかない、みたいな感覚がたしかにあった。コッペパン。僕が提案したんだ、コッペパンがもうあれ以上進化しないのだということ、それを、悼もうよ。かわいいよ。

 すると君はいいとも何ともいわず、じゃあ二人でここで悼みましょうといい、君は、あの晩の君は、わらいだしそうにしていた。
















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