非常用
あたしは兄の非常食になりたい、何度でも。行ける気もする、地球にはまだまだつよいやつがいっぱいいるもんね、ガンガン新しい扉が開いていくよ、みんなガンガンやってる。少年ガンガンやってる。ガンガンやって、ガンガン進んで。
「ごっそさん」
我に返った。
あたしは無意味に兄の退席に頭を下げる。近くを通り過ぎていくとき、軽く髪を手の甲で触れられて、でも返せない、こちら側にある何もかも、兄が向けてくる兄お得意の整理整頓されすぎてる親密さに合うようなものが、だってひとつとしてないのだし、あたしのこれもどこかに行ってしまうということは、可能性として考えられないのだった。
けっきょく、あたしは兄以外の誰かの非常食になるしかない。それは初めから決まっていたこと。
あたしはあたしを指差し、何度もじぶんを指差し、非常食はここ、ここで、あたしが非常食、ここで非常食、そうやって、兄に見られるのを期待しじぶんを指差すことを何と呼ぶのだろう。
ここだと叫ぶことが適切でないのはあたしもわかってた。
あたしの美しい兄。美しい人。
その非常食にあたしはなりたかった、でもあたしは醜いから、ただ通路として、ここに存在し続けているしかない。




