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何も
もう捨ててくれて構わないからといっているのが聞こえてくるほどに古いライターのような、けれど大切な言葉。
テーブルごしに渡すと、彼はすぐに、本当にごく当たり前の動作で着火させてしまう。
僕が信じられなかったのは、その炎の大きさ。
がく然としていると身を乗り出して彼は、僕の胸ポケットに戻してきた。彼は無言のままだ。
まるで、長年の僕の秘めてきた思いなんかは本でみかけたことのある挿話みたいなものだとでもいうように、温度の低いまなざし。
どちらをかはじぶんでも分からないまま首を締め、殺す目的で手が動こうとしているのが、下を向けば見えた。
僕は意味なく声を上げて笑い、それから彼がどう考えるのかなんてこと気にも留めない。さっきとはぜんぜん別の話題を、殆どまくし立てるみたいにして、僕は仕事の話をし始めた。




