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 叶うなら、彼の隣の席にひっこし僕がそれを拭いたい。

 彼はこのクラスで運命の女との出逢いを果たしたのだった、以来止まらなくなった彼の涎。それが、しょっちゅう彼の机の上に醜く光る水溜まりをつくっている。机の縁から垂れ落ちては、教室の床まで光らせたりするものだから、近隣の席に座る女子三人が陰で迷惑料をもらっている。本当に尋常じゃない量だから。けれども、あんな滝は、運命的なものと近くにいられる人に特有の歓喜のあらわれと呼ぶべきものなのか、もしくは彼の魂が欲するものを目の前にしながらいまだ一つになれていないということからくる彼の飢餓と呼ぶべきものなのか、誰一人、判定できないでいた。

 クラス内にいる誰もどんな滝のことも判定できなかったし、大部分が滝を知ろうともしないし、でも連日教室に行くと滝だしで、このごろ殺気だっている女子連中に対し、いい加減男子の中からも面白がるのをやめ厳しい意見を口にする者も出てきており、風紀委員の立場として、僕は彼のことを怖れている。本当は違う、でも全生徒同様、涎の滝よりは涙の滝だったほうが絵になるのにね、などといちおうは意見を表明したりもしつつ、胸の内では、ああ、これが彼なんだと、最初見た時に僕は思ったし、気持ちは今も変わっていないのを何度も確かめている。

 以上のことから、いつ、誰が、何をしでかすか分からない、それが今現在この二年四組が陥っている状況である。










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