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料理する人しない人
僕はひとり暮らしだ。
だがじぶんのためだけには料理ができない。
僕は料理しない。
僕は祈る。
彼女は、祈らない。
彼女は彼女の現在を作っている人々にかんしても、自身のことも本当の意味じゃ守れやしないことを知っていた。
彼女は、だから毎日料理をするのだろう。
僕たちが知ってる彼女はとても料理じょうずの女性。
歩いて海のちかくまで行くと腰をおろして毎日小一時間ばかし、そこで祈り以外の何か、祈らない彼女が何かをやっている様子を町の人々は目にした。
毎日ちゃんと彼女は家に帰る。
彼女はあの大盤振いの笑顔で、あのいってらっしゃい、あのおかえりなさいをアガサのお茶会をしている、ありふれた成長途中の僕たちにも降らせたのです。
ただ一つ、僕たちに語ることができないものは真昼の暗い部屋で開いている大きな花のこと。
あの名も知らない、けれど何か毒々しく開いている花のことだ。いつも僕たちが学校に行っているあいだ何を思っていたのか、いつか、闇の中で訊ねてみようと僕は思っている。




