挿入話:儀式の場に向かう二人
月明りの差し込む廊下を歩く二人組がいた。一方は小さな木箱を大事そうに抱えるローブ姿の細身の人間で、もう一方は白銀の鎧に身を包み王剣を背負う筋肉質の人間であった。
ローブ姿なのはルシフェル、白銀の鎧に身を包んでいるのはディーザだ。
二人とも歩みは早いが、雰囲気は落ち着いていた。
「もうすぐ安心できるようになります」
中性的な声で、ルシフェルが口を開いた。
「本当に長かったです」
「あんたの考えに口を挟む気はないが、他にやりようはなかったよな」
ディーザが懐かしむように溜め息を吐いた。
「俺もいろいろやったもんだ」
「そうですね、お疲れ様です。本当はこの子にも協力してもらいたかったのですが、仕方ありませんでした。結果的に協力してもらうので良かったと考えましょう」
ルシフェルは木箱をなでた。
木箱には弟であるギルバートの魂が閉じ込められている。ルシフェルがソーラーに作らせたもので、簡単には開けられない。
木箱が時折カタカタ揺れる。中から出ようともがいているのだろう。
ルシフェルは微笑む。
「大人しくしなさい、ギルバート。あなたをこれ以上傷つけるつもりはありませんから」
「ルシ様がそのつもりでも、ギル兄は傷ついているはずだよ。僕だって悲しいから!」
誰もいないはずの場所から声変わり前の少年の声が聞こえた。
ルシフェルの目の前にエイベルが現れた。空間転移で出現したのだろう。青い瞳を吊り上げて、怒りを露わにしている。突然の事態にルシフェルは両目を見開いて、思わず立ち止まった。
ほんの一瞬だが隙が出来た。
エイベルは木箱を奪い取り、床を蹴って大幅に距離を取る。
ディーザの気功が飛んでくると思ったのだ。
しかし、思ったような攻撃は来なかった。
ディーザ本人が王剣を抜いてエイベルに向けて振りかぶっていた。気功を放てば確実にルシフェルを巻き込むため、ディーザにしてみれば当然の判断だ。
「う、うわぁぁああ!」
エイベルは悲鳴をあげて走る。空間転移はわずかにタイムラグがある。どうにかして時間を稼がないといけないのだが、ディーザを相手に逃げられる保証はない。
加えてルシフェルが時間操作の魔術を発動させれば、すぐに追いつかれるだろう。
自分が切り殺されては意味がない。
エイベルの判断は早かった。
「一人じゃ無理だ!」
木箱を窓の外に向けて放り投げた。
ディーザとルシフェルの気がそれる。ルシフェルは木箱の周囲の時間を止めた。木箱は一瞬だけ宙で止まり、すぐに床へ落下する。窓の外に出ていくのは防がれた。
ディーザが安堵の溜め息を吐く頃には、エイベルの姿は無かった。
ディーザはめんどくさそうな表情で木箱を拾い、ルシフェルに渡した。
「ギルバートを助けるために来たはずなのに、随分と箱を乱暴に扱っていたな」
「箱が窓の外に落ちたら、あの子の方が素早く拾いに行けますからね。お兄ちゃん想いのいい子ですね」
ルシフェルはくすくすと笑っていた。
「気を取り直して儀式の場に向かいましょう。また邪魔が入らないうちに」




