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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
ゲベート王都の貧民街
9/91

8.心強い重み

 スバルは溜め息を吐いて首を横に振った。

「俺はここの連中と話し合うつもりだったんだ。武器は持ってねぇ。ましてや狼男が来るなんて予想してなかったから、銀のさじの一つもねぇよ。まあ、ここで俺が狼男に殺されてもあんたは殺されずにすむだろう」

 言いながら、スバルは狼男と向き合った。狼男は既に態勢を立て直し、余裕の笑みすら浮かべていた。

 狼男は爪についたスバルの血をなめながら、恍惚とした表情で鼻息を荒くしている。


「君の血は美味しいよ。実は、いい血筋の人間だろ?」

「知らねぇよ! 気色悪い」


 スバルが唾を吐くのを見て、狼男は声を出して笑った。スバルには狼男にトドメを刺す手段はない。余裕があるのは当然だと言えた。


「血の晩餐を始めよう。僕にたてついた事を後悔しながら死ぬといい」


 十本の爪と、凶悪な牙がスバルに襲い掛かる。スバルは応戦するが、鼻づらや目元はガードされていて、体毛がない部分に攻撃が届かない。体毛のある部分にいくら蹴りをいれた所で、虫に刺された程度のダメージもないだろう。

 スバルの身体に、じわじわと切り傷が増えていく。そのたびに、スバルの身体の動きは悪くなり、爪の餌食になる。急所を外されているのはわざとなのか、分からなくなっていた。

 シュネーが震える。人が嬲り殺されるのを見ていられなくなったのだろう。

 片膝をつくスバルの目の前で、シュネーが両手を広げる。


「私が捕まればいいのでしょう。この人を殺す必要はない」


 シュネーは涙声だった。彼女の顔から時折こぼれおちる雫は月明かりに光り、誰の心も惑わしそうなほどに美しく透き通っていた。

 しかし、狼男は首を横に振る。

「反乱兵を逃がすわけにはいかない」

「この人は反乱兵じゃない。ただの通りすがりよ!」

 切実に訴えるシュネーの言葉を、狼男は鼻で笑った。


「信用できない、どけ」


 狼男が右腕を振りかぶり、シュネーへと殴りかかる。殴り飛ばすつもりなのだろう。しかし、その腕がシュネーに触れる事はなかった。

 スバルが舌打ちする。


「めんどくさい王女様だぜ。俺が時間稼ぎをしている間に逃げりゃよかったのに」


 スバルはシュネーの両腕を掴み、引き寄せていた。シュネーが急に後ろに下げられたために、狼男は空振りをしていた。

 スバルは間髪入れずに狼男の鼻づらを蹴り飛ばし、シュネーの右手を引っ張って距離を取る。狼男がもだえているうちに走った。

 しかし、そんなスバル達の行く手を阻む獣の集団がいた。瞳をぎらつかせた狼の群れだ。狼男の呼び声に応えて集まったのだろう。瞳を血走らせ、不気味なほどによだれを垂らしていた。

「ヤバいのが来たな……前にも狼、後ろにも狼」

 スバルはぼやいて振り返る。狼男が起き上がり、スバルを睨んでいた。

「君は血祭りにあげる。覚悟してほしい」

 狼男がじわりじわりと近づいて来る。その眼は怒りで満ちている。狼の群れも、徐々に近づいていた。

 スバルは交互に見ていた。

「きついな……狼男がいるせいで、狼どもがはじゃぎそうだぜ」

「でも、諦めていないでしょ」

 シュネーが口を開いた。


「私も諦めたくない。メーア姉さんに会うまでは、絶対に。でも、あなたは何も持っていない。仕方ないから、これを預ける」


 シュネーは銀の首飾りをスバルに手渡した。見た目よりも重い。だが、今のスバルには重さが心強かった。

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