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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
ゲベート王城、再び
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75.地下室にて

 スバル、フローラ、そしてギルバートが送り届けられた場所は地下室だった。薄暗く、苔臭く、埃まみれであった。

 鉄格子で遮られた牢屋が幾つもある。牢屋には飢えと絶望のせいで生気を失くした人間が閉じ込められていた。

 フローラは思わず嗚咽を漏らした。

「ひどいですね……こんな所に人を入れておくなんて」

「囚人の扱いはこんなものだ」

 淡々とした口調でギルバートは答えて、周囲を見渡す。

 地下室の奥に巨大な水槽があった。その中に長い銀髪の人魚が浮かんでいる。

 ナトュール国の第一王女メーアに間違いない。

「まだ生きているようだな」

 ギルバートは足元の埃を気にせずに歩き、水槽にそっと手を触れた。

 濁っていた水が透明になる。メーアの頬元が、どことなく血色が良くなったかのように見えた。


「汚れた水は人魚の身体には辛かっただろう」


「メーア姉さんを人魚と言わないで! ナトュール国の第一王女なのよ!」


 甲高い声は、鉄格子の中から聞こえた。

 振り向くと、肩まで銀髪を伸ばした猫耳の少女が、両手で鉄格子を掴み、恨めし気にギルバートを見ていた。


「せっかく助けが来たと思ったのに、あんまりよ!」


「シュネーじゃねぇか! 生きてたんだな!」


 スバルが駆け寄ると、シュネーは涙目になった。

「散々な扱いだったわ」

「辛かったよな。すぐに出すから、ちょっと離れてろ」

 スバルに言われるがままに、シュネーは鉄格子から離れた。

 スバルは癒しの剣に手を掛けて、両目を閉じて短く息を吸った。

 次の瞬間に、鉄格子は切り取られていた。目にも留まらない速さで抜刀し、鉄格子を切り裂いたのだ。

「すごい……!」

 シュネーは両目を輝かせた。

 スバルは笑う。

「感心している暇があったら逃げようぜ」

「待ってくれ、俺も助けてくれ!」

「私もお願い!」

 鉄格子に閉じ込められた人間たちが、次々と声をあげた。いくつもの声が反響し、誰が何をしゃべっているのか分からなくなる。

 スバルは耳を塞ぎたくなったが、それでは剣を振るえない。耳はガンガンするが、仕方なく鉄格子を切り裂く。

 鉄格子から外に出た人間たちは歓声をあげた。

「夢みたいだ!」

「早く外の空気を吸いたいわ!」

 互いに抱き着き、喜びを分かち合っていた。

 スバルは溜め息を吐いた。

「まだ逃げ切ったわけじゃねぇんだ。早くここを離れようぜ」

「……そう簡単にはいかないようだ」

 ギルバートが苦々しい表情で地下室の入り口に視線を向けた。

 白銀の鎧を身に着けている黒髪の男が立っていた。筋肉質な身体つきで、背中に大剣を付けている。男の正体に気付き、スバルは戦慄する。

 騎士王子ディーザ。第二王継承者であり、ゲベート王国最強の剣士だと言われている。

 彼の背中の大剣は、王剣。国の命運を背負っている証である。


「よぉ、ギルバート。元気か?」


 ディーザは片手をあげて笑顔を浮かべる。


 はつらつとした雰囲気であるが隙がない。何気ない言葉を発しているが、目が笑っていない。

 スバルたちを逃がすつもりはないのだろう。

 ギルバートはしぶしぶ首を横に振る。

「疲れている。休ませてほしいものだ」

「そりゃ大変だ。お疲れさん! 部屋でゆっくり休めよ」

「用事が済んだらな」

「どんな用事だ? まさかこいつらを牢屋から逃がす事じゃないよな」

 ディーザが壊れた鉄格子と、怯える囚人たちを見渡す。

「死罪が決まった人間たちを外に出して、何をするつもりだったんだ?」

「平和に暮らすつもりだ」

「反乱軍討伐の勅命を忘れたのか? 俺たちに平穏は許されない」

 ディーザに叱責され、ギルバートは溜め息を吐いた。

「俺はおまえのように心身共に強くない」

「気にするな、上には上がいるもんだ!」

 ディーザは笑いながらヅカヅカと地下室に足を踏み入れる。

 この時、スバルの背中に悪寒が走った。

 ディーザは王剣を抜いていないし、戦意があるように見えない。しかし、スバルの勘は告げていた。


 何もしなければ、誰かが死ぬと。


 スバルは咄嗟に癒しの剣を抜いて、ディーザの前で振るった。


 衝撃波が辺りに散乱し、苔や埃が一掃され、床がえぐれて、地下室の入り口付近の鉄格子は粉々に砕かれた。

 信じられないような事態だった。ディーザが放った衝撃波が、癒しの剣のオーラとぶつかり、鉄格子を蹴散らしたのだ。

 フローラがバリアを張っていなかったら、シュネーや囚人にも被害が出ただろう。

 ディーザは背伸びをした。

「準備運動としてはまあまあか。ルシフェルが来るまでちょっと遊ぶか」

「……ルシフェルがこんな所に?」

 ギルバートが額に汗をにじませた。

 ディーザは事もなげに頷いた。

「儀式の準備が終わったらすぐにおまえらに会いに来るらしい。楽しみにしてろよ」

 ディーザは両手を腰に当てて大笑いしていた。

 スバルはディーザの衝撃波を一回防いだだけで、全身から汗が吹き出し、肩で息をしていた。

 絶望的な実力差があるのは明白だった。

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