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残酷な俺の仕事  作者: 今晩葉ミチル
若き王子の来襲
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71.怒り

「皆さん、どうなったのでしょう」

 崖の上で、茶髪の娘フローラが右往左往していた。空から幾人も落下していった。救おうと考えて、透明な壁を張った。

 しかし、咄嗟の事で成功したか分からない。

 見に行くにも、崖からどうやって降りればいいのか分からない。確認のしようがない。

「アレク王子に道順を聞いておけば良かった」

 そう言って肩を落とした。

 そんな彼女は崖の下をひたすら見つめていた。数えきれないほどの人間が動かなくなっている。雄叫びが減り、だんだんと静かになっていった。

 フローラの全身にじっとりと汗がにじむ。喉も乾く。

 両目を閉じて、ひざまずく。胸に両手を置く。

「皆さんご無事でありますように」

 純粋無垢な聖女の祈りであった。


 そんな彼女の後ろで、不穏な影が生まれた。


 ロベールとエイベルを乗せた騎馬が、前足を高々と上げている。前足は無情にもフローラ目掛けて勢いよく降ろされる。フローラは気づいていなかった。

 黒い鳥が騎馬の足を弾かなかれば、踏み殺されていただろう。

「クソがああぁぁ!」

 フローラは、スバルの悲鳴じみた怒号を耳にして、ようやく両目を開ける。

「何をしているのですか!?」

 フローラが呼びかけても返事はない。

 スバルを乗せる黒い鳥が、大空を信じられないほどの速さで飛んでいる。目で追うのがやっとだ。

 黒い鳥は地面へと垂直降下する。その先には、ロベールとエイベルがいる。黒い鳥は生半可な速さでは避けられると判断したのだろうか。しかし、敵を仕留めるためとはいえ、自殺行為だろう。スバルはたまったものではない。

 案の定、黒い鳥は地面へと激突し、そのまま消滅した。

 盛大に土煙が立つ。土煙からゆっくりと影が出てくるのは、フローラにとって決して朗報ではない。

 エイベルは咳き込んでいたが、騎馬の主は穏やかな表情で地面に転がるスバルを見ていた。

「派手にやってくれますね。ですが、もう終わりです」

 ロベールは騎馬を降り、癒やしの剣を取り上げた。

 スバルは虫の息だった。黒い鳥が地面にぶつかる寸前に無理やり降りていたのだが、衝撃を吸収しきれなかった。

 ロベールが微笑む。

「トドメを刺させていただきます」

 ロベールの言葉に応えるように、騎馬がいななき、フローラに向かって突進する。フローラは透明な壁を張る事ができず、悲鳴をあげるのが精一杯だった。

 同時に、ロベールは癒やしの剣を鞘から抜き、スバルに振り下ろす。

 スバルの意識はほとんどない。しかし、歴戦を生き延びた肉体が勝手に動き、地面を転がり、剣撃を躱す。

 転がった勢いで起き上がり、痛みでガタガタになった身体に気合を入れて、走る。ロベールが再び剣を振り下ろすが、スバルは右に跳び退き紙一重で躱し、ロベールの脇腹を殴る事に成功する。

 防御のしようのない攻撃に、ロベールがむせる。その隙に癒やしの剣を取り返した。

 その時に、フローラの身体が無残に宙を待った。騎馬に突き上げられたのだ。彼女は耐えられない痛みのために、意識を手放していた。落ちていく先には、騎馬に乗ったままのエイベルがいる。


「ギルバートをたぶらかした罪は重い」


 そう呟いて、空間ごとフローラを切り裂こうという瞬間に。

 らせん状の黒い影が、エイベルを騎馬ごと絡め取ろうとした。騎馬は虚空へ消える。

 フローラは落下する。その華奢な身体を、漆黒のローブを来た男が受け止めた。

「随分と乱暴だな」

 ギルバートだった。フローラをそっと地面に降ろして、両手を当てる。淡い光が彼女を包みこんだ。意識は戻っていないが、怪我は治癒されていた。


「エイベル、ロベール。おまえたちには俺の怒りを伝える必要があるな」


 ギルバートが低い声で告げた。

 空が曇り、辺りが暗くなる。雨が降り始めた。

 エイベルが不敵に笑う。


「君が怒っているのは分かっているよ。でも、僕たちの怒りはそれ以上だ」


 エイベルが、ロベールに騎馬に乗るように命令する。

「今から僕は奥義に集中する。ギルバートとスバルの攻撃を躱してて」

「かしこまりました」

 ロベールの視線は、癒やしの剣に向けられた。スバルが握ると、エイベルとギルバートの両者を確実に蝕む。

 しかし、二人の王族は自らの身体に徐々に血がにじむのを気にした様子はない。

 ギルバートはスバルに命令する。

「阻止しろ」

「分かってる!」

 この状態では、両者にとって短期戦が望まれる。

 決着の時は近づいていた。

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